はじめに
こんにちは、SB IntuitionsのYuyang Dong、廣淵亮太、平子潤です。
SB Intuitionsでは、日本語に強い国産のLLMの開発に取り組んでおり、これまでに様々なモデルの公開を進めてまいりました。また、開発したモデルをより幅広いビジネスシーン等でご活用いただくため、2025年11月からはSarashina2 miniを商用APIとして公開・提供しています*1。
この度、私たちは新たに開発した国産LLMであるSarashina3 miniおよび軽量化版であるSarashina3 nanoを公開します。これらのモデルはフルスクラッチで開発されており、新たな学習パイプラインとデータを利用することで多様なタスクにおいて大幅な性能向上を実現しています。また、その高い実用性と信頼性が評価され、デジタル庁が推進するガバメントAIの試用モデルとしても採択されました*2。
この記事では、Sarashina3 mini / Sarashina3 nanoのモデル概要や、性能向上の鍵となった新たな学習パイプラインとデータ、そして評価結果について紹介します。

Sarashina3 mini / Sarashina3 nanoの特徴
Sarashina3 mini / Sarashina3 nanoは長い思考を必要としないInstructモデルであり、ユーザーの入力に対して素早く応答することが可能です。また、性能改善のためにさまざまな工夫を行っており、ここでは代表的な4つの取り組みを紹介します。
日本最大規模の事前学習 — 日本語・英語を中心に30Tトークンの大規模かつ高品質なデータを用いて、事前学習を行いました。データ構築においては、独自の品質フィルタリングやデータ合成技術を活用し、多様で有用性の高いデータを拡充しました。また、学習の各段階に応じてデータの配分や内容を工夫するカリキュラム学習を採用しました。これにより、基礎的な言語能力から、推論・指示追従・実用的な応答能力まで、モデルの能力を段階的に向上させています。
多段階の強化学習による多面的な能力強化 — 各能力を順次学習するカスケード学習と、複数能力を同時に学習するフェーズを組み合わせた多段階の強化学習により、指示追従・数学・ツール利用などの能力をSarashina2 miniから大幅に向上させました。また、非同期強化学習を採用することで、大規模な強化学習を効率的に実施しています。
エージェント能力の向上 — 多様なSFTデータと、内製の合成データパイプラインによって生成したエージェントタスクデータを組み合わせた学習により、さまざまなツールや使用シナリオへの対応力を獲得しました。複数ツールの同時呼び出しや、異なるツールを連続して使うマルチステップのエージェントタスクにも対応しています。
日本語能力の向上 — 社内で大規模な日本語アノテーション・評価体制を構築し、専任の評価者や専門チームによって、日本語としての自然さ・丁寧さ・簡潔さ・実用性を継続的に検証しました。これらのテスト結果は生成テキストのスタイルのアライメントを行う強化学習やOPSD(オンポリシー自己蒸留。モデル自身の生成結果を元に自己改善する手法の一つ)等へ反映され、調整後のモデルをさらにテストするフィードバックループを複数回にわたって回すことで、日本語の高品質な出力を安定して生成できるようにしています。
ユースケース
ここではSarashina3 mini / Sarashina3 nanoの代表的なユースケースについて紹介します
検索ツールを活用したチャット
検索ツールが与えられた場合、質問内容に応じて自律的に検索を行い会話を行います。Sarashina3 mini / Sarashina3 nanoは、過剰な装飾などを減らしたスタイルで回答するようにチューニングされています。

チャットでの複数ツールの自動選択・呼び出し
株式取引ツールを用いて、銘柄検索・銘柄詳細取得・取引実行をユーザーの指示に沿って実行する例です。複数与えられたツールから必要なツールを選択・実行し、ユーザーと対話しながらタスクを遂行することができます。

指示追従
表データから、システムへの入力形式としてよく利用されるJSON形式へと変換する例です。指示に含まれる複数ルールを理解し、適切な出力形式で回答を行うことができます。

口コミデータ分析
Sarashina3 nanoを用いてECサイトにおける大量の口コミを並列で読み込み、ポジティブ・ネガティブ項目とスコアを推定する例です。Sarashina3 nanoはSarashina3 miniと比較して高速であり、このような単純なタスクを大量に処理する場面などで有効です。

ベンチマーク結果
Sarashina3 mini / Sarashina3 nanoの評価結果を冒頭の図に示しています*3。日本語対話(ELYZA-tasks-100*4)・日本文化QA(JamC-QA*5)・数学(AIME 2025*6)・コーディング(MBPP+*7)・指示追従(IFBench*8)・ツール呼び出し(BFCL v3*9)・エージェント(τ2-bench Telecom*10)・安全性(Answer Carefully*11)の8つのベンチマークで評価を行いました。今回の評価では、Sarashina3 mini / Sarashina3 nanoと同様に推論(Reasoning)モードを使用しない標準的なInstructモデルとの比較を行いました。比較対象はAlibaba社が開発するQwen3シリーズ(Qwen3-4B-Instruct-2507・Qwen3-30B-A3B-Instruct-2507・Qwen3-235B-A22B-Instruct-2507)と、OpenAI社が開発するGPT-4.1およびGPT-5.4 mini(non-reasoning)です。
Sarashina3 miniは、前世代のSarashina2 miniと比較して全ベンチマークで大幅な性能向上を達成しました。数学(AIME 2025)・コーディング(MBPP+)・指示追従(IFBench)・エージェント性能(τ2-bench Telecom)において特に顕著な改善が見られます。これらの能力向上には、大規模な事前学習データの刷新や、多段階の強化学習の導入が寄与していると考えられます。
他社モデルとの比較では、OSSの大規模MoEモデルであるQwen3-235B-A22B-Instruct-2507およびOpenAI社のGPT-4.1・GPT-5.4 mini(non-reasoning)と全体的に同程度の性能を示しています。特に日本文化・社会常識QAベンチマークであるJamC-QAではこれらを上回っており、日本語を重視した学習の効果が表れています。
エージェント能力については、BFCL v3においてGPT-4.1と同等の性能を示しており、基礎的なツール呼び出し・エージェント能力が獲得できていると言えます。複数ステップにわたるより複雑なエージェントタスクを評価するτ2-bench(Telecom)では、Qwen3-235B-A22B-Instruct-2507と同等以上の性能を示しており、Instructモデルとして高い水準に達しています。また、日本語の出力安全性を評価する Answer Carefullyにおいても、他の高性能モデル以上のスコアを維持しており、高い実用性と安全性を両立しています。
Sarashina3 nanoは、Sarashina3 miniより軽量・高速なモデルです。小型OSSモデルであるQwen3-4B-Instruct-2507と比較すると、日本語性能をはじめ多くの領域で高い性能を示しており、スループットが重視されるユースケースや単純なタスクを大量に処理する場面に特に適しています。
以上のように、Sarashina3 mini / Sarashina3 nanoは日本語能力・数学・コーディング・エージェントなど多様な領域で前世代から大幅な性能向上を達成し、Instructモデルとして国際的な最先端モデルと肩を並べる水準に達しています。日本語に特化した高品質なデータと学習パイプラインにより、日本語固有の知識・文化理解においては大規模なモデルをも上回る性能を実現できており、国産LLMとしての強みを発揮できていると考えています。一方、Reasoningモデルがすでに広く普及した現在においては、エージェント能力などで求められる性能水準にはまだ達していない点もあるため、今後も継続的な改善に取り組んでいきます。
おわりに
本記事では、新たに商用APIとして提供を開始したSarashina3 miniとSarashina3 nanoを紹介しました。今後も国産LLMの開発・改善に継続して取り組んでまいりますので、引き続きご注目いただければ幸いです。
プロジェクトメンバー(五十音順)
- 青野広太郎
- 浅野広樹
- 泉健太
- 伊藤優希
- 入亮介
- 梅本和俊
- Yuyang Dong
- 近江崇宏
- 大森一祥
- 岡照晃
- 奥山陽平
- 鎌倉まな
- 上之薗有夏
- 金輝燦
- 小林広和
- 坂本亮
- 佐々木翔大
- Jiaxuan Li
- 澁谷紘人
- Seng Pei Liew
- 曹国林
- 高山隼矢
- 土井花織
- 鳥居淳
- 菱沼利彰
- 平河優真
- 平子潤
- 廣淵亮太
- Huy H. Nguyen
- 福地成彦
- Pride Kavumba
- 堀越将司
- Mark Bajo
- 三浦仁樹
- 吉田奈央
- 綿岡晃輝
謝辞
本モデルの開発にあたり、多くの方々にご支援・ご協力をいただきました。
学習データの作成からモデルの品質評価まで、丁寧かつ真摯にアノテーション作業に取り組んでくださったデータ構築チームのアノテータの皆様に、心より感謝申し上げます。
*1:https://www.softbank.jp/business/service/ai/sarashina-api/
*2:https://www.digital.go.jp/news/10d55c63-b3e1-42b9-9cc5-93a06943ae0e
*3:τ²-bench, BFCLv3は公式の実装を利用し、それ以外の評価はFlexEvalを用いて社内で実装した評価コードを利用しています。各ベンチマークのスコアはmin-max正規化(0〜1)して表示しています。
*4:日本語自由記述タスク100問の回答品質を評価するベンチマーク(HuggingFace)。本評価ではLLMジャッジとしてgpt-oss-120bを使用。
*5:日本の文化・風習・歴史・法律など8カテゴリの選択式QAベンチマーク(HuggingFace / テックブログ / 論文)。
*6:2025年の米国数学招待試験全30問を使用したオリンピックレベルの数学推論ベンチマーク(Artificial Analysis)。
*7:Pythonのプログラミング問題でコード生成能力を評価するベンチマーク(GitHub)。
*8:58種類の制約タスクで指示追従の汎化性を評価するベンチマーク(GitHub)。
*9:LLMの関数呼び出し能力を評価するベンチマーク(GitHub)。
*10:通信ドメインのカスタマーサポートシナリオでエージェントを評価するベンチマーク(GitHub)。Sarashina以外のスコアはArtificial Analysis掲載の値を使用。ユーザーエージェントにはQwen3-235B-A22B-Instruct-2507を使用。
*11:日本の社会・文化的文脈を反映した日本語LLM安全性評価データセット(HuggingFace / 論文)。本評価ではLLMジャッジとしてgpt-oss-120bを使用。