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照明の実務知識 — 波長・偏光・点灯方式・外光・安全

レンズは欠陥をどれだけ鮮明に写すかを決め、照明は欠陥にコントラストがあるかを決める。

コントラストが無いものは、どんな高級レンズでも、どんな AI でも見えない。

外観検査でいちばん効く技能はここにある。

幾何(同軸/リング/ドーム/暗視野/バックライト)の数値的な選定

optics/guides/optics_imaging.md の「照明設計」節が扱う(illumination_design /

defect_contrast / lighting_sweep が第一原理でコントラストを計算する)。

この文書はその外側 —— 機器と現場の実務 —— を書く教材である。


1. 幾何の早見(詳細は optics_imaging.md へ)

| 欠陥・目的 | 効く照明 | 理屈 |

| --- | --- | --- |

| 鏡面の凹凸・刻印 | 同軸 | 正反射をそのままカメラへ返し、傾いた面だけ暗くする |

| 一般的な表面 | 高角リング | 汎用。まずここから試す |

| 荒れた欠陥(欠け・ピット・微細傷)・異物 | 低角リング(暗視野) | 散乱成分だけを拾う。平面は暗く、荒れた所だけ光る |

| 光沢のある曲面・顔料の色 | ドーム | 全方位から照らして正反射のムラを消す |

| 輪郭・寸法・穴 | バックライト | 形だけを見る。表面の模様に邪魔されない |

| 方向性のあるテクスチャ | バー(斜め) | 影で凹凸を強調する |

注意: 「暗視野なら傷が光る」は荒れた側面を持つ傷の話。

なめらかに傾いただけの面(例: 10°)は暗視野では光らない —— 低い光をカメラの外へ

鏡面反射するだけだからである(defect_contrast が数で示す)。


2. 波長の選択 —— 実務でいちばん効く自由度

短波長ほど微細に有利。 回折限界は λ に比例する(Airy 半径 = 1.22 λ N)。

同じレンズでも青(450 nm)は赤(630 nm)より約 3 割細かく分けられる。

微細欠陥を狙うなら短波長。

赤外は透ける。 多くの樹脂は近赤外を透過するので、袋や樹脂カバー越しに中身を見る、

接着層の内部を見る、といった使い方ができる。シリコンセンサ自体は 約 1100 nm

(Si のバンドギャップ)まで感度があるので、そこまでは普通のカメラで撮れる。

UV 励起の蛍光で「可視では見えないもの」を見る —— 接着剤の塗布ムラ、油分、

異物の残留。光っているのは反射ではなく被写体自身なので、露光は桁違いに長くなる。

色でコントラストを作る。 対象の補色の光を当てるとその部分が暗くなる。

緑の異物を赤色照明で撮れば黒く沈む。カラーカメラより単色照明 + モノクロカメラ

ほうが感度も分解能も良いことが多い。

• ★ 狭帯域 LED + バンドパスフィルタが外光対策の定番。

照明の波長だけを通すフィルタをレンズに付ければ、蛍光灯も日光もほとんど落ちる。

遮光カバーを作る前に、まずこれを試す価値がある。


3. 偏光

直交偏光でテカリを消す。 光源側と受光側に偏光板を入れ、直交させる。

金属や透明層での正反射は偏光をよく保つので消える。一方、内部で散乱してから

出てくる拡散反射は偏光が解消されているので残る。

→ 塗装面のクリア層のテカリを消して下地を見る、といった使い方。

応力複屈折で透明体(ガラス・樹脂)の内部応力を可視化できる。

成形品の残留応力、強化ガラスの検査。

• 代償は光量が落ちること(偏光板 2 枚で 1/4 以下)。§4 の点灯方式と組で考える。


4. 点灯方式 —— 連続 / ストロボ / オーバードライブ

| 方式 | 光量 | 使いどころ |

| --- | --- | --- |

| 連続点灯 | 定格どおり | 静止物、単純な構成。熱が定常に達するまで明るさが動く(§6) |

| ストロボ(パルス) | 連続と同程度 | 動体ブレを止める。露光と同期して短く光らせる |

| オーバードライブ | 大きく増える(条件により定格の 10 倍程度) | 光量が足りない・高速搬送・偏光で暗い、を一度に解く |

オーバードライブの要点(一次情報は照明メーカーのアプリケーションノート):

• パルス幅は数 ms から 1 µs まで、デューティは 1% 未満まで下げられる。

• 発熱の制約からデューティは 10% 程度が上限とされる。

• 低デューティなので LED 接合部の発熱はむしろ減り、寿命に有利

放熱器を小さく、あるいは不要にできる設計上の余地も生まれる。

カメラの露光とのトリガ同期が必須。ずれると「たまに暗い画像」が混じり、

原因が照明だと気づきにくい(学習データにこれが混ざると質が落ちる)。


5. フリッカとビート —— ラインスキャンで致命的

PWM 調光の周波数とラインレートがビートを起こすと、画像に横縞が出る。

調光を絞るほどデューティが下がって目立つ。調光は PWM でなく定電流で

が原則。

• 外光も同じ。商用電源由来の 100 / 120 Hz、インバータ蛍光灯の数十 kHz。

• 対策の順: ①遮光する ②バンドパスで落とす(§2)③露光時間を明滅周期の整数倍にする

④定電流調光に替える。


6. 経時変化と保守

LED の光束は経時低下する。 定電流で駆動していても、接合温度が上がれば光量は下がる。

• だから 熱定常で測る。電源投入直後は明るく、数十分後に落ち着く。

立ち上げ直後に決めた露光値は、定常状態では暗すぎる。

• 判定の閾値を絶対輝度で持つ装置は、定期的に標準板(白色拡散板)で校正するか、

光量フィードバック付きの電源を使う。

• 合成データを作るときも同じ —— 実機の明るさが動くなら、その変動幅を

inspection_dataset(intensity_jitter=...) に入れておく。


7. 安全(IEC 62471)

ランプとランプシステムを 4 つのリスクグループに分類する規格。

| RG | 意味 | 目安 |

| --- | --- | --- |

| RG0(免除) | 危険なし。長時間見ても害はない | 連続被ばく ~10,000 s まで |

| RG1(低リスク) | 限られた時間なら害はない | ~100 s |

| RG2(中リスク) | 瞬目反射など自然な回避反応があるため通常は傷害に至らないが、短時間でも不快 | ~0.25 s |

| RG3(高リスク) | 短時間でも危険。特に近距離 | — |

RG2 / RG3 は警告表示と使用上の注意が要る。 産業用の強い照明は RG2 に入ることが

普通にある(例: Zivid 2+ のプロジェクタは IEC 62471-5 の RG2)。

• 検査装置は人が覗き込む作業が必ず発生する(段取り、清掃、トラブル対応)。

設計時に RG を確認し、覗き込む姿勢で被ばくしない構造にする。

UV と青色は特に注意(青色光網膜傷害)。UV 蛍光検査は遮光筐体が前提。


8. 外光と迷光の実務

• 遮光カバー、開口を小さく、内側は艶消し黒(黒アルマイト、植毛シート)。

迷光は「見ていないところ」から来る。白い床、作業者の白衣、隣の装置のモニタ。

カメラ位置から部屋を見回して、明るいものを探す。

• 遮光しきれないなら §2 のバンドパス。照明を強くして相対的に外光を無視するのも

一手で、そのときオーバードライブ(§4)が効く。


9. fullseye での現在地(正直に)

| 要素 | 今あるもの | 足りないもの |

| --- | --- | --- |

| 幾何 | light_source / light_spec(ring / dome / bar / coaxial / backlight)、illumination_design | — |

| 波長 | light_spec(wavelength_nm, bandwidth_nm)light_wavelengths | 実分光分布、蛍光(励起 → 発光の波長変換) |

| 偏光 | light_spec(polarization=)jones_* / mueller_* op | 照明 → 表面 → 受光の偏光を通したレンダリング |

| 点灯方式 | 無し | ストロボ/オーバードライブ、露光との同期ずれ |

| フリッカ | 無し | ラインスキャンのビート縞(実機の主要な故障モード) |

| 経時変化 | inspection_dataset(intensity_jitter=) で振れる | 熱による系統的なドリフト(ランダムでなく単調) |

| 安全 | 無し | リスクグループの計算 |

| レンダリング | illumdesign は点光源の和 | 多重反射・相互反射なし、異方性 BRDF 未対応 |


10. 診断表 —— 症状から原因へ

| 症状 | まず疑う | 確かめ方 |

| --- | --- | --- |

| 欠陥がまったく見えない | 照明の幾何が合っていない | illumination_design(surface, defect) で候補を出し、上位から実機で試す |

| 傷は見えるが平面もギラつく | 正反射がカメラに入っている | 偏光板を直交に入れる、または仰角を変える(lighting_sweep) |

| なめらかな傾き欠陥が暗視野で光らない | それは正常。暗視野は荒れに効く | defect_contrastregime を見る。topographic なら暗視野は不適 |

| 画像に横縞が出る(ラインスキャン) | PWM 調光と外光のビート | 調光を定電流に、遮光、露光を周期の整数倍に |

| たまに暗い画像が混じる | ストロボとカメラ露光の同期ずれ | トリガ信号をオシロで見る。連続点灯にして再現するか確認 |

| 朝と夕方で判定が変わる | 外光の混入 | 遮光して再現するか。バンドパスフィルタを入れて比較 |

| 立ち上げ直後だけ合格率が高い | LED が熱定常に達していない | 電源投入から 60 分、10 分おきに標準板を撮って輝度を記録 |

| 数か月で徐々に閾値を外れる | LED の経時低下 | 標準板の輝度を履歴で見る。定期校正を運用に入れる |

| 露光を伸ばせず光量が足りない | 連続点灯の上限 | オーバードライブ対応の電源に替える(デューティ 10% 以内) |

| 作業者が眩しいと言う | リスクグループ | RG を確認し、覗き込み位置での被ばくを見直す |


出典

• Advanced Illumination — *The Mechanics of Strobe Overdriving LED Lights for Machine

Vision Applications*(連続 / ストロボ / オーバードライブの区別、低デューティ化、

接合部発熱の低減) — <https://advancedillumination.com/the-mechanics-of-strobe-overdriving-led-lights-for-machine-vision-applications/>

• Smart Vision Lights — *OverDrive Driver*(パルス幅 数 ms〜1 µs、デューティ 1% 未満、

デューティ上限 10%、定格比 10 倍級の電流) — <https://machinevisiondirect.com/blogs/news/svl-overdrive>

• Opto Engineering — *LED pulsing and strobing* — <https://www.opto-e.com/basics/led-pulsing-and-strobing>

• Advanced Illumination — *IEC 62471 Photobiological Safety of Lamps and Lamp Systems*

(RG0–RG3 の分類) — <https://www.advancedillumination.com/wp-content/uploads/2023/04/IEC-040119-Photobiological-Safety-of-Lamps-and-Lamp-Systems_042723.pdf>

• Luminus Devices — *Understanding IEC 62471 and IEC 62778 Eye Safety Risk Groups* —

<https://luminusdevices.zendesk.com/hc/en-us/articles/10532958752397-Safety-Understanding-IEC-62471-and-IEC-62778-Eye-Safety-Risk-Groups-visible-and-nonvisible-light-sources>